日記
伴奏のコツ
こんにちは!
講師の沓澤玲奈です。
私は大学院で伴奏について勉強し、修了後も伴奏ピアニストとして活動をしています。
今回は、私の専門とする伴奏についてのお話をしたいと思います!
【目次】
*はじめに
伴奏とは"伴って奏でる"という字の通り、ほかの楽器や歌と一緒に行う演奏のことです。
伴奏はなんとなく地味で、ソロ(一人で弾くこと)より簡単そうだと思われてしまうことがありますが、実はとっても重要な、縁の下の力持ちなんですよ!
*伴奏の役割
私は、伴奏には主に4つの役割があると考えています。
①音楽の世界観を作る
②音楽の流れを作り運んでいく
③相手をサポートする
④相手と対話する
例えば、『赤ずきんちゃん』のお話を思い浮かべてみましょう。メロディ(ピアノ以外の楽器や歌)は主役、つまり赤ずきんちゃんで、伴奏は背景だと思ってください。
はじめは赤ずきんちゃんがお母さんからおつかいを頼まれる場面。
背景はきっとおうちの中ですね。
ではどんなおうちなのでしょう。
おうちの中は暖かい?寒い?または明るい?暗い?
このようにお話の"世界観"を細かく作っていくのが伴奏の大事な役割の一つです(①)。
そしてずっとおうちの中にいるわけではありませんね。
背景を森に変えたりおばあさんのおうちに変えたりしながら、赤ずきんちゃんを導いていきます(②)。
赤ずきんちゃんの姿がよく見えるよう、そして安心して歩けるような道や土台を作るという配慮も必要です(③)。
そして時々、背景だけではなくオオカミさんの役になって、赤ずきんちゃんと会話することもあります(④)。
少しだけ伴奏に親しみが湧いてきましたか?
*器楽の伴奏
私は今までヴァイオリンやトランペット、クラリネットなど、さまざまな種類の楽器と共演させていただく機会がありました。
伴奏をするときに気をつけていることはたくさんあるのですが、特に大事なのは
・相手の楽器の特徴を理解して弾くこと
・常に相手の音を聴き続けること
・一緒に呼吸をすること
だと思っています。
みなさんはピアノ以外の楽器に触れたことはありますか?
楽器によって、それぞれ音の出し方や音色、得意な音の高さが全然違うんです。
例えば相手がフルートだったらピアノも柔らかく溶け合うような音色で弾いたり、トランペットだったら思い切って吹いてもらえるようピアノもハッキリした音で相手を支えたりします。
そして演奏中は自分の音だけでなく常に相手の音の動きも聴いて、どの方向にどのくらいの速さで進みたいのかという相手の意図をキャッチし、共演者の魅力を引き出すための音色づくりや音量バランスに気をつかいながら、積極的に音楽を運んでいきます。
また、器楽のアンサンブルでは特に、ピアノと相手の楽器どちらが主役というわけではなく、対等な関係になっている作品も多いです。
それらは前の項でお話しした「④相手と対話する」という要素が大きく、ピアノだけが演奏する"聴かせどころ"もたくさん出てきます。
それから、「息を合わせる」という言葉がある通り、相手の音と自分の音をぴったり合わせるには、まず相手と同じように呼吸をすることが大事です。
じゃんけんをするとき、いきなり「ポン!」と言っても手を出すタイミングが合いませんよね。一緒に「じゃんけん♩」のかけ声をするから「ポン」のタイミングが合う、それと似ています。
特に吹いて音を出す管楽器と一緒に演奏する場合は、相手がどこで息を吸うのか、"ブレス"の位置を把握しておく必要があります。
*声楽と合唱の伴奏
歌の伴奏をするときも、気をつけている点はほとんど楽器の伴奏をするときと同じです。
ただ大きく違うのは、やはり"歌詞"があるということです。
日本語だけではなく、イタリア語やドイツ語、フランス語など、さまざな言語の歌がありますが、伴奏者も歌詞の読み方(発音)と意味をよく理解して曲の雰囲気を作り、大事な単語や言葉のアクセントに寄り添った弾き方ができると、歌手は歌いやすくなるのではないかと思います。
合唱の伴奏をするとき、まずはソプラノ、アルト、テノール、バス、それぞれのパートがどんな動きをしているか確認します。
ピアノ伴奏の中にどこかのパートと同じ音や同じ動きをしている部分が見つかったら、特に耳を集中させて息をぴったり合わせ、大事に弾くようにしています。
そして合唱の大きな魅力は、声と声が重なり合って生まれる"ハーモニー"にあると思います。
私はよくハーモニーを色に例えることがあるのですが、みなさんは「ドミソ」を弾いたとき、「ラドミ」を弾いたとき、それぞれどんな色を思い浮かべるでしょうか。
もちろん答えは人それぞれ違っていいのですが、音の組み合わせが変わると色も変わる感じがしませんか?
曲の中でどんどん移り変わっていくハーモニーの色をピアノ伴奏で表現できたら、きっとそれにつられて合唱の声の響きもすばらしいものになると思います。
そしてみんなでハーモニーを作る上で大事なのが、伴奏の左手に出てくる"ベースライン"をしっかりと深い音で弾くということです。
ベースは簡単に言えばハーモニーの土台となる一番低い音のこと、ベースラインはその音と音とのつながりのことです。
土台がしっかりしていると、その上に安心して声を乗せることができるので、これから学校などで合唱の伴奏をする機会があれば、ぜひ実践してみてください。
*おわりに
もしかしたら普段、ほかの楽器や歌と一緒に演奏する機会は少ないかもしれません。
ただ、今みなさんが取り組んでいる教材を開いてみてください。右手が「メロディ」、左手が「伴奏」の役割になっている曲がたくさん出てきていませんか?
このコラムでお話しした内容が、一人で演奏するときにも、立体感のある表情豊かな音楽を作るためのヒントになれば幸いです。
沓澤